野生の勘と生きたい

主に好きなものを言語化する予定

ブラックホーク・ダウン

 1、2年前くらいにやたら戦争映画ばかりレンタルして観てた時期があって、その中でなぜか一番心に残っていた作品。たまたま配信されてるのを発見したからもう一度観てみた。

 


 映画内では作戦中にブラックホークが撃墜されたアメリカ軍が予定外の市街戦に巻き込まれていく様が描かれていて、ストーリーらしいストーリーはそんなにないというか、わりと淡々としている。
 そもそも作戦の背景も『独裁してる悪いやつを潰してソマリアの平和を回復させるぞ!そのために悪いやつ陣営の幹部を捕えるぞ!』みたいなざっくりとしたことだけ語られるだけだし、それぞれの登場人物の背景も出撃前の普段の様子がちょろっと描かれるくらい。観る人によっては「戦闘しかしてないじゃん、結局何だったの?」ってなるくらいだと思う。
 でも、だからこそ、ぞれぞれの大義や背景があったとしても戦闘が始まってしまえばそんなものを考える余裕もなく、分かりやすいドラマ(何かの行動が結果的に後に英雄譚として語られることになるかもしれないが)もなく、ただ人間が生きるか死ぬかだけなんだという空気が実感できて、心に残ったのかもしれない。その辺は『ハンバーガー・ヒル』も似てた感じがする。
 キャラの普段の様子もちょろっととは言っても、なんとなくの人となりとか、語られない余白も想像できるような描写をしているので、その辺の語りすぎないけど伝えてくれるバランスが好き。

 

 もともとがノンフィクション小説とのことだったので、前に映画を観た後に小説も購入して読んでみたが、実際に戦闘に参加した兵士達のエピソードが映画よりさらに詳しく書かれているのに加えて、映画では省かれていたソマリア側の事情や戦闘までの経緯(映画とは別部隊のアメリカ軍が長老会議を攻撃、戦争反対派の長老まで死亡→ソマリアでは氏族の繋がりが重要であり、長老を殺害された氏族全体が反アメリカに…など)や、民兵として戦闘に参加したソマリア人やソマリアの民間人側の視点も書かれていた。
 映画の最後にも出てくるように『泥沼の戦闘』とは言っても、15時間で亡くなったアメリカ軍兵士が19名なのに対して、市民は1000人程度(アメリカ政府発表なので、実際にはもっと少ないかも?それでも数百人単位)が亡くなっていて。映画ではそっち側には焦点が当たらず流れ作業のように殺されていってしまうので、本はそれとはまた違った視点という意味で良い。


 とはいっても、アメリカ軍メインで書かれている本であることには違いないので、ソマリアのことをもっと知りたくなった時は高野秀行さんの『謎の独立国家ソマリランド』と『恋するソマリア』が良いかも(ソマリランドと言いつつ、戦闘のあった南部ソマリアのことについても触れられてる)。映画の最初の方で兵士がバカにしていた「ラクダ100頭」の取り決めについても詳しく知れたりするし、何より普通に読み物として面白い。特に『恋するソマリア』が好き。